フロー体験 喜びの現象学(書評)

いい本だったので、ご紹介したい。

喜びを得られる体験=フロー体験、について書かれている。というと宗教的なにおいがして、拒否反応を起こしそうになるが、総じて実験に基づく科学的見地から書かれている(一部、感情的や理想論的な部分も感じるが)。

自分がどうしたらフローを感じられるか、だけでなく、他人、特に子供や家族にフローを感じさせるにはどうしたらいいか、といったことも書かれている。

フロー体験とは、

一つの活動に深く没入しているので他の何者も問題とならなくなる状態、その経験それ自体が非常に楽しいので、純粋にそれをするということのために多くの時間や労力を費やす状態

を指す。ただし、酒を飲んだり、テレビを見たり、セックスしたりといった、受動的、単純なものではなく、

ある活動がどれだけ楽しいかは究極的にはその複雑さにかかっている。

飽きてきたら更にその複雑さを増すことで、フロー体験を維持できる、とのこと。

そしてフローは、

目標が常に明確で、フィードバックが直接ある

もののほうが没入しやすい、と述べられている。行為としては散歩や読書のようなものでも構わない。目標によってそれらに複雑さを与え、フィードバックが得られるシステムを自分なりに構築するべきなのだろう。

自らフローを生み出すのにはエネルギーがいるので、余暇を持った時に、

仕事時間に楽しむ以上に余暇を十分に楽しむことすらできないのが普通である。

と述べられている。仕事は目標が与えられるが、余暇におけるフローは自分で設定しなければならず、ついついテレビを見てしまう。著者は意味深い言葉を紹介する。

未来は、教育を受けたものだけでなく、自分の余暇を懸命に用いるように教育されたものに開かれる

フロー体験には、人間関係、特に友人や家族との関わりも大事になってくる。真の友人について、著者は、

時には一緒に馬鹿げたことができる人であり、いつも誠実ぶっていることを期待しない人である。それは自己表現という目標を共有できる人であり、したがって経験の密度を高めようとする際に常に付随する危険を、進んで分け合おうとする人である。

と述べている。フロー体験を共有できる人、ということか。さらには、

理想的な結婚は自分の配偶者を友人とすることである

とも。

  子供を育てる上で、いかに子供にフローを経験させるか、についても述べられている。フローを生み出す家庭環境の条件として、5つの条件を挙げている。

第一は明確さ・・・目標、フィードバックは明確である。

第二は中心化・・・自分がしていることや具体的な感情・経験に感心を持っているという子供の認識

第三は選択の幅・・・幅広い選択の可能性を持っていると感じている

第四は信頼・・・何であれ自分が関心をもつことに人の目を気にすることなしに没入するようになることを認める、子供への親の信頼

第五は挑戦・・・複雑な挑戦の機会を子供に徐々に課していくという親の働きかけ

たとえ自分が最悪な状態にあったとしても、人間は「散逸構造」を持っているといい、

潜在的な恐れを楽しい挑戦に変換する

事、つまり、その最悪な状態であったとしても、下記のルールに従うことでフローを生み出すことができるとする。

一、目標の設定

二、活動への没入

三、現在起こっていることへの注意集中

四、直接的な体験を楽しむことを身につける

最悪な状態をまず改善するのではなく、そこからさえもフローを生み出す事ができる、というのが筆者の考えだ。例えば、視力を失った人、その多くの人々が視力の喪失を彼らの人生を豊かにした積極的なできごとであると述べている。

これは、「考えない練習」にも同じようなことが書いてあった。いま、身の回りに起きていることに心を寄せると、余計なことは考えなくなる。「考えない練習」では余計なことを考えなくなるとリラックスできる、との趣旨だったが、本書ではモチベーションを高めるフローの方法論として述べられているのが面白い点だ。

最後の章では、大きな人生の目標「ライフテーマ」を設定し、各フローに統一感を持たせることで、生活に意味を持たせることができる、と総括している。かの有名なスティーブジョブズの演説で「点を結ぶ」という言葉があった。あの言葉は、何気ないことでも、やっていればいつかは繋がるものだ、意識的につなげていこう、というものだったかと思う。この本では、最初に大きな目標を設定し、小さなフローに分割していくべきだ、と書かれており、まぁ似ている話だなぁ、と感じた。